2019年05月17日

握りしめているもの

どうしても悟りが開けないという雲水(修行僧のこと)が、思い余って師の和尚に教えを仰いだ。

「私には皆目悟りが開けません。どうすればいいのでしょうか」

和尚はその雲水についてくるように促すと、寺の裏山に登って行った。
やがて切り立った断崖に出た。

断崖からは松の大木が一本横に張り出している。
その下は言うまでもなく千尋の谷底である。

和尚は松を差して、
「これへ登るのだ」
と命じた。

みるみる雲水の顔色が蒼白になっていく。
しかし、勇気を奮うと雲水はしがみつくようにして幹に登った。

「その細い枝のところまで行くのだ」

ようやく枝のところに達した雲水に向かって、

「手だけでぶら下がってごらん」

雲水は命じられるままに、両の腕で枝にぶらさがった。

「片手だけでぶら下がってみよ」

一方の手を放したとき、小枝はしなるように揺れた。握っているほうの片手には渾身の力が込められ、鋼鉄のようになっている。

「その手も放すのだ」


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posted by Kaoru at 08:25| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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